牙龍−元姫−
「邪魔すんなよっ!」
ガンッ!
かなり苛立っている様子のユミさんは生物室の椅子を蹴る。その震動で部屋にある模型がガタガタ揺れた。
暗い暗いこの生物室に5人の女子生徒。
当初に予定していた展開と異なりつつある現状に動揺と焦りが隠せない彼女の友人達。
「ユ、ユミ!落ち着きなって!」
「そ、そうそう!」
友人である二人に宥められフーフーと肩で息をする。暴れる猛獣が気を落ち着かせているみたいだと思った。いまのユミさんには始めの余裕綽々とした態度の欠片もない。
「お前等何したのか、分かってんのかよ………?」
―――――――纏うオーラが橘さんらしくない。
私を抱き締める手が震えているのが分かった。それは私のような恐怖ではなく只の純粋な、怒り。
顔を盗み見ると只真剣な眼差しで彼女達を見つめる。
息を呑む程、真っ直ぐな瞳。
悔しさでもない、泣きそうでもない、笑顔でもない、
ただ無表情で真剣な眼差し。いつもの破天荒な彼女の物腰らしくなくて目を疑う。
「ハッ。何言ってんだよ?橘。お前が出る幕じゃねえんだよ!とっととその女棄てて帰れよ!」
「棄てる?―――――誰が誰を」
「だからお前がソイツをだよ!」
「何で?」
「はあ!?」
「何でアタシが響子ちゃんを見棄てんの?」
―――――‥友達なのに。
「………ぇ」
ただ純粋にただ無垢に淡々と話す橘さん。悪意の欠片もなく「自分は間違ってない」そう言う自分を信じる信念を持ち合わせているのか当たり前のように平然と私を友達だと言って退けた。
私は橘さんに抱き締められながら戸惑った。またもや訳の分からない蟠りが私の心を渦巻く。
私なんかを友達?私と橘さんが?数回しか会ったことないのに?――――――友達の定義って何?
「ともだち?……っははははは!友達が居ない橘に友達!?傑作だな!夢でも見てんね?あはははは!」
「響子ちゃんはアタシの友達だし」
「笑わすなよ!まあ良いよ!嫌われものどうしお似合いじゃん!」
「……ねぇねぇアンタ戒くんの事が好きなわけ?」
「は!?」
「いや。さっき聞こえたからさ。でもそれなら報われない。だって―――――――」
「っお前にだけは言われねえよ!お前が男を語るなんて百万年早いんだよ!一体何なわけ!?どいつもこいつもムカつくんだけど!」