牙龍−元姫−



橘さんは室内の会話が聞こえていたらしい。"戒吏様"を好きなユミさんは報われないと言われたのが頭にキたのか顔を真っ赤にした。当然照れた訳ではなく怒りで。怒りから火が迸っている。



睨まれながら"ムカつく"と言われた橘さんは…………










笑った。



無邪気に笑ったんだ。



声を殺さず。



子供が宝物を見付けたときの弾み声でワラッタ。





「アタシも響子ちゃんを傷つけたアンタが嫌いだよ」





笑って静かに拒絶する橘さん。



ゾクッとした。背筋にヒンヤリと冷たいものが走ったのを感じた。



笑ってる。



確かに、笑ってる。だけど―――――‥‥





「響子とアタシが友達じゃないとかお前が決めるなよ」





怒ってる。



彼女は静かに怒ってるんだ。



それも相当。



声色から激怒しているのがわかる。だから余計に静かな彼女が怖いと思った。乱れない。狂わない。荒げない。ユミさんのように取り乱すこともせずに嘲る。





「アタシの友達を貶すなよ、糞ババア」





―――バリンッ。



愛用の眼鏡を外し片手で割った。








純真だからこそ怖いんだ、怒らせると。心が素直で穢れがなくて、飾り気がない。真っ直ぐで、真っ直ぐな、その邪な気なんてない瞳だからこそ――――――――――逸らしたくなるのかもしれない。





「な、によ



…………っ何様!?出しゃばってんじゃねえよ!」

「ち、ちょっとユミ!」

「もう良いじゃん!タカシの事じゃないなら!」





ユミさんを必死に宥め抑える友人達はちゃんと区別がついている。敵に回していい人物と―――――――――そうでない人物を。



草食動物は肉食動物には敵わない。弱肉強食。それは動物だけではない。人間でも同じことだ。弱者は地にひれ伏し強者は天へ昇る。



これが道理で物事のしかるべき道で<理>
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