牙龍−元姫−
友人の説得の甲斐があってか息を荒げて自身を落ち着かせようとしているみたい。2人は壁に瓶を叩きつけたユミさんを微かに慌てふためいて見ている。
ユミさんが私たちの視線に気づいたのか私たちを――――ギンッと鋭く睨み付けた。
「……」
(もうやだ〜っ)
「……」
(遼ちんの方が迫力あるよね〜。馴れって怖い!まずどんだけ睨まれてんだよアタシ。哀れだ)
普通に怖がる私とは裏腹に哀れな自分に十字架を伐った橘さんを私は知らなかった。
「仕方ないから今日の所は見逃してやる!」
「え。負け惜しみ?」
「な……っ!」
「た、橘さん!」
「うえっ!?たたたッ橘さん!?なななななななッ何でそんな他人行儀な呼び方なの!?」
「……ええぇ」
……橘さん。
言い知れぬ感情が沸き上がる。私は呆れたような顔をしていると思う。それか若干の疲れが滲み出た表情を見せている。
此処で、この場面で、どうして名前に突っ込むのか聞きたい。今はそんな陽気な場面じゃないよね?
橘さんと居るとペースが狂う。
ああ――…
拝啓・里桜さま
私は頭が痛いです。
―‥‥‥床に座ったまま痛む頭を抑え前のめりになる。それに何を勘違いしたのか橘さんが騒ぎ立てる。
「響子ちゃん大丈夫!?アンタ等のせいで響子ちゃんが偏頭痛になっただろうがああああ!」
※注意。貴女のせいです。
目の前で繰り広げられる喧しい行動にに馬鹿馬鹿しさを感じながらも「負け惜しみ」と言われて軽く治まっていた怒りが湧いてきたユミさんが小刻みに震え出す。