牙龍−元姫−
夢うつつ
コツ──‥コツ──‥‥
静まり返る神楽坂の廊下に二重して聞こえる足音。それは私と寿々ちゃんが立てる音。寿々ちゃんは歩くのが遅い私に然り気無く歩調を合わせ歩いてくれている。
昼間の賑やかさは皆無な殺伐とした廊下。
当たり前だが人一人いない。
数分前と違うことは私と寿々ちゃんの関係が"友達"だと明確になった事。
それだけ。それだけだけど、それだけで距離が縮まったような気もする。
第二生物室を出て廊下を歩いてくれている私の身体は激痛に襲われていた。
ツゥー冷や汗が頬を静かに伝う。痛みで歪む顔は暗い廊下では寿々ちゃんに気付かれることはない。
横目で寿々ちゃんを見れば──────鼻歌まじりまで歩いている。今にでもスキップしそうな身軽さだ。
このまま気付かないでほしい…
(………痛い)
私の頭のなかはそれだけで埋め尽くされている。確実に折れている腕が歩く度に振動し痛みが伴う。
‥───だろうね〜?
痛みでいっぱいで飛びそうになるなか、ふと耳に届く寿々ちゃんの明るい声。
「………え?」
「ええ!?聞いてなかったの!?もう響子ちゃんはドジだな〜!そんなドジッ子なところも可愛いけど!」
「ご、ごめん」
寿々ちゃんの大きな話し声が廊下中に響き渡る。
ドジッ子は関係ないような……
まずドジッ子でもないよ、私は。
痛みで話すことすら儘ならない私は口を紡ぐ。なるべく口を開かないようにしている為突っ込むことはない。