牙龍−元姫−
「あのケバい人は戒くんのこと好きなんだね〜!はて。何で戒くんなんだろ?無愛想だし!」
戒吏をそんな風に言えるのは寿々ちゃんだけだよ…。
知られた後の報復を誰もが恐れると思う。
うははは!と豪快に笑う寿々ちゃんは何処までも我が道を進む子なんだと理解した。
その愉快な笑い声は廊下に響き、エコー気味に聞こえた。誰か校内に残っている生徒が居れば不気味に感じた筈。
「……でも彼氏いるみたいだったよ?」
忘れそうだったけど元々はそれが原因で絡まれたて生物室に連れて行かれたんだよね。
「うげえー!なら何で戒くん?尚更分かんないなあー!絶対に戒くんより彼氏君のほうが良いのに!あんな無愛想そうなのが彼氏だったら疲れる!」
見たこともない"タカシさん"を賛美する寿々ちゃん。
手を頭の後ろで交差し戒吏を批判する。
「きっと諦めきれなかったんじゃないかな?」
「そんなもんかねぇ〜」
煮え切らないようで納得しない。───そんな寿々ちゃんを見て不意に疑問が芽生える。痛む身体に耐え口を開き聞いてみた。
「好きな人、いないの?」
ピタッ
その言葉に急停止する寿々ちゃん。
はかなり驚愕している。穴が開くほどわたしをマジマジと見つめてくる。
………不味いこと聞いちゃった?
内心あたふたするけど次第に笑顔が戻る寿々ちゃんに首を傾げる。
「が、ガールズトークみたいじゃないかー!?この会話!もしや、こ、これが巷で流行りの女子会!…ぐふッ。響子ちゃんと女子会フィーバー!ぐひひひひひッ」
うん。突っ込みどころ満載だね。
変な笑い方をして自分の世界に入る怪しい寿々ちゃんを私は絶対に止められない。
Q:こういうときの対処法は?
A:無視する
里桜の教えの通り敢えて今の寿々ちゃんには触れないことにした。