牙龍−元姫−
手を添え壁をつたい歩く。それに伴いひんやりと壁の冷たさが肌に滲みる。



私の頭も冷やしてほしいと思った。


私じゃなくなりそう。寿々ちゃんと関わるとこればかり考えてしまう。寿々ちゃんは良い子だからこそ私の醜さが浮き上がる。





……寿々ちゃんが遼を好きなら別にいいじゃない



人が人を好きになるなんて誰にも止められない。愛情が湧くのは極自然な事で、それが偶々遼だっただけ。



なのに…



なのに、私はいま何を想ってるの?



これじゃ屋上で戒吏と話した時と一緒だよ。



遼が誰か特定の人を選ぶことに嫌だと駄々をこねている自分がいる。寿々ちゃんに遼を獲らないでと願っている私がいる…。



何も遼だけじゃない。
偶々遼だっただけで。



庵でも空でも蒼衣でも―――――――例え戒吏でも。私は同じことを想っていただろう。





皆にとって私なんか、忘れたくて仕方ない憎むべき女。



なのに、私は心の片隅にある記憶にすがり付く。今も未来も関係なく過去ばかりを振り返る…



あの頃には戻れないと知りながらも夢ばかり見てしまっている。
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