牙龍−元姫−





「……そうか。謝りにいってねえのか、」





その声色はどこか当時を思い出させる。



仲間が傷つけられたとき慎さんは激怒した。それは彼が仲間を大切に思っているからこその怒り。



そして今の慎さんはその当時の声色そのもの。だが何処か切なく、哀しさがソコには含まれていた。






「“謝る”?」





遼太が如何わしげに、慎さんを見る。未だに読めない話に謎は深まるばかり。



慎さんは『―――ああ』と力なく頷いた。





「おいおい慎さんよ〜?さっきから肝心な事は曖昧じゃねえの」





煮え切らない慎さんにタバコから出る煙を眺めながら聞く蒼衣。



一体何本吸ったのやら……灰皿にはタバコの吸い殻だらけだ。



若干煙たさもある。しかし此処にはそんな細かい事を気にする奴はいない――――――――深刻な話をしているから尚更。







「―――――俺は豪を信じていたんだ」





いきなりのカミングアウト。



“事情”ではなく“想い”から語りだした慎さん。



肘をテーブルに付き手を交差しながら彼は“豪”を思い出しているのか目を瞑り、瞑想する。
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