牙龍−元姫−




「あんな奴信じるなんて慎さんも健気だね〜。俺には到底理解できねえよ」

「…“仲間”だからな」





蒼衣は微かに眼に鋭さを宿しながら皮肉を込めた言い方をする。



そんな蒼衣とは目を合わそうとはせず慎さんは自分に語りかけているかのようにも聞こえる。





「…ナカマねぇ」





ぼんやりと上がる煙を見上げていた眼をチラリと慎さんに移す蒼衣。



―…そしてただ黙ってジッと聞き見つめていた遼太が口を開く。



思い詰めている慎さんに追い討ちをかける。しかしそれは慎さんを思っているからこその遼太なりの言葉だ。





「慎さん、テメエの甘いところはソコだ。テメエが言う“仲間”っつーのは何だよ?仲間を傷つけるのが仲間なのかよ?」

「違う。“仲間”は牙龍にいる仲間を護る“仲間”だ」

「ああ、そうかよ。なら牙龍の情報を垂れ流しにして仲間を売った奴も“仲間”なのかよ?」

「……俺は豪を信じたかった」

「甘ったれんな。仲間が傷ついてからじゃ遅えんだよ」





――――まだ傷ついていないから冷静でいられる。



遼は勿論それは蒼衣も同じ。まだ遅くはない。だからこそ慎さんに伝えたい。



甘い考えが身を滅ぼす。一見責めているようにも聞こえるが遼太はただ慎さんに解ってほしかった。





――――分かりにくい、彼なりの気遣いだ。





「…そうだな。遼の言う通りだ」





遼太の言葉に神妙に頷いた慎さん。その顔には後悔の二文字が見えた。



彼のその後悔は一体何を意味するのか。遼太も蒼衣も自分の甘い考えに後悔したと思った―――――――――違う意味の“後悔”だというのに。





「分かったんならいいぜ。もう片桐も引退してんだからよ」

「……遅かったんだな、全て」

「……あ?」





後悔が滲み出し辛く辛く慎さんが顔を歪ました。



そんな嘆かわしい慎さんの姿に遼太は如何わしげな眼差しで見つめ、蒼衣も何事?といった表情で慎さんを見つめた。
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