牙龍−元姫−
「……俺は豪に問い詰めたんだ。ならアイツはあっさり白状しやがった」

「何をだよ」

「……そしたらアイツは俺にこう言ったんだ『一人で謝りに行くから見逃してくれ』ってな」





遼太の問いには答えず、慎さんは言葉を続ける。



ギュッと手を握りしめ自分の責めているようにも見える。強く握られた手から薄らと血が滲む。





「俺は腐っても豪は仲間だと思ったから、その言葉を信じ見逃した」





―――結果この様だ、



自らを嘲笑う。


慎さんらしくない、その姿。








「だから片桐が何したんだよ」




今しがた、自分をスルーされたのを根に持っているのかピリッとした雰囲気を纏っている。



遼太がイライラしているのが手に取るように分かる。



慎さんの言葉からは結局何が起こったのかは分からずじまい。慎さんを急かし問いただす。





「言っただろ?お前らの仲を掻き回したって」

「あ?さっき言ったことかよ」

「そうだ、」





一端、



言葉を切り、意を決したように言葉を発した。





「豪は謝らなきゃいけない。お前らに、そして、………響子ちゃんにも」





遼太はその言葉に――――いや、名前に、微かに反応を示した。



ぼんやりしながらタバコを吸いながら黙って聞いていた蒼衣も。



“響子ちゃん”



慎さんから出た言葉に反応せずにはいられなかった。
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