牙龍−元姫−
そんなあからさまな二人に慎さんは表情にこそ出さないが苦笑い気味。



―――――響子ちゃんを切り捨てたらしい牙龍。そして、その牙龍の幹部である蒼衣と遼太。



響子ちゃんをあんなにも大切に想っていたのに、そう簡単に切り捨てられる筈ないか。


慎さんは心のなかで納得した。



しかし二人に響子ちゃんを堂々と想うことさえ出来なくしたのも、牙龍から響子ちゃんの居場所を奪ってしまったのも、全て―――――――俺のせいなのか?



そう思うと辛くなった。



遼のように自分の考えがもっと甘くなければ、と。変えられない事実に目を背けたくなった。








「簡単に言うと、」





まさか、このことを自分がカミングアウトすることになるとはな――――…



そう思いながらも慎さんは意を決して重い口を開いた。








「響子ちゃんは牙龍を裏切ってなんかいねえ」







ピシッと空気に亀裂が走った。







「どういうことだ」





鋭い瞳を更に鋭く光らせる遼太。まるで今にでも突っ掛かってきそうな勢いだ。



黙ってタバコを吹かしながら聞いていた蒼衣は、タバコを灰皿に強く押し付けた。その灰皿が自分のように見えたのか慎さんは背中に冷や汗が伝う。



その蒼衣の冷たい瞳には、慎さんだけを捕らえている。まるで逃がさないとでもいう獣だ。
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