牙龍−元姫−
――――心底。慎さんはテーブルが間にあって良かったと胸を撫で下ろした。
今にでもキレそうな遼太を制御する奴は今ここにいない。
蒼衣も止めようとする素振りは見せない。それどころか「存分にやれ」と言っているかのようだ。
慎さんは参ったな…と冷や汗を掻く。
「オイ」
低く低く。ここまで低く地を這うような声が出せるのかと言うような声色で空気を制する。
遼太はさっさと話せと言わんばかりに威嚇し慎さんを睨み付ける。
遼太の隣では慎さんを冷徹な瞳で眺める蒼衣。いつも詰まらなさそうにしている緩んだ瞳がしっかり開いている。
きっと遼太が急かす言葉を口にしていなかったら彼が言っていただろう。
―――――蒼衣も遼太も気持ちは同じ。
かなり危うい二人の纏う雰囲気を肌で感じたのかこれは言葉を慎重に選ばなきゃいけないと感じる。
二人の限界に近い理性を逆撫でしないようにと、息をつき胸を落ち着かせてから話し出す。
その瞳に宿った決意。いまから、2人に本当の事実を話す事に躊躇いはなかった。ただ、懺悔のみ。
「本当に裏切ってたのは、片桐豪だ」
夜は長いな…
“明けない夜はない”
どんな暗い夜も朝になれば明けるように、今は不幸な時期であっても、やがて必ず良い時期が来る。
だけど今は本当にその時期が来るのかさえ定かではない。
――――今日は一段と長い“夜”だと慎さんは感じた。