牙龍−元姫−
明けない夜
* * *
「あーあ。行っちまった。」
走って店から出ていった2人の後ろ姿をぼんやりと眺める。勢いよく外に駆けて行った2人に何事かと視線が集まる。
しかしその視線に気づく余裕も気づく術もあいつらには、ない。
今あるのはただ1つ。
浮かぶのは、あの子の涙だけ。
映える金色と藍色はもう―――――――見えない。勢いよく音をたて飛び出して行った2色。
緩やかな絶望と崩される陰謀と共に。
危うい2人が店を出たことに安堵しかったるいネクタイを片手で緩める。
若いっていいよな。俺なんてスーツ着て1人で酒を呑んでるともう年を感じるてるんだぞ。
あんな勢いよく店を飛び出すなんて青春だよな。そういえば俺にもあんな時代あったんだよな。若気の至りってやつだ。
黒髪にしたときはアイツ等に散々笑われたっけ。今となっちゃ全部懐かしい思い出だ。
「お!兄ちゃん生ひとつ頼むわ」
昔を思い出しながら偶々通りかかったアルバイトらしき爽やかな男前の店員に声をかける。
まあアイツ等程でもないがイケメンだ。どうしてもアイツ等見てると感覚が麻痺しちまう。揃いも揃って男前すぎるじゃねえか。
――――――あんな整った顔してる奴らに睨まれたらこっちだって心臓にワリィぜ。
遼は普段はおチャラけてるただの馬鹿だが実は物凄く冷静な奴だ。
いつも退屈そうにしている蒼衣も実は確り周りを見て、1つ2つ、人より先の事を推定して物事を捉えている。
あんな焦った二人始めてみたぞ。焦りは隠していたみたいだが動揺と共に滲み出ていた。どうやら怒りは隠せていなかったがな。この店のテーブル壊すきかお前らは。
「――――響子ちゃんか」
“牙龍の姫”
あの2人を此処まで動かすなんてその名は伊達じゃないな、と思い俺は神妙に頷いた。