牙龍−元姫−
あいつらが神楽坂に行くっつったときは驚いた。
それはもう、身が捩れるほどに、笑った笑った。
なんたって笑い死ぬかと思ったくらいだからな。
あれから今でさえあの時程笑った記憶なんてねえぞ。
――――だってあの名門・神楽坂だぞ?
庵や戒吏は兎も角。
ぜってえ空や遼があの難関を突破出来る筈ねえってな。
まあ、蒼はやればできるヤツだから何とかなるんじゃねえの?って感じだったけど。
それもたった一人の女の子の為に。
本当にこれほど笑えることはねえと思った――――嬉しすぎて。
俺が馬鹿にした笑いだと思ってるヤツ等が大半だったけどな。俺はアイツ等が人に執着を見せたことに嬉しかったんだ。
男であれ女であれ他人に自ら執着を見せるなんて天変地異の前触れかと思ったぐらいだ。
まあ半分からかいもあったけど。
人は人でも女の子って分かったときはかなり本気でビックリした。その子の可愛さにもまじビビった。
「お、サンキューな。」
どうぞ!と爽やかな笑顔が似合うイケメンのアルバイト店員が元気よく差し出してきたビールを受けとる。
ひんやりとした感覚が手から伝わってくる。少し暑い店内には程よい冷たさ。
「―――ぷはっ、うっめえー」
昔はただ何気なく呑んでいたビールが今は仕事疲れの後の唯一の癒しと化している。喉越し爽やかなビールはもう手放せねえよ。
俺みたいに一人でいるサラリーマン風の男や汚れた作業着を着ているヤツもきっと疲れた後の癒しを求めているんだろう。