牙龍−元姫−
目、逝ってたぞ。畏縮するような瞳だった。遼も。蒼も。抑えきれない怒りが滲み出て溢れでて止まらないほどに。
止まることはないんだろうな。
いや、止める術をアイツらは知らない。
手にあるジョッキのなかのビールが揺れる。これが俺の癒しと例えるなら“姫”は龍の癒しなんだ
「………バカだ。お前はバカだよ」
後先考えずに事を起こしやがって。本当にお前はバカだ。仮にお前も牙龍に入ってたなら学習しやがれ。龍から姫を取り上げるなんてこと自殺行為に近い。
怒りに狂った龍を止めることなんて姫にしか無理だ。姫を奪ったお前に助かる術も逃げる術もねえ。
「―――――はぁ」
ため息つかずにはいられねえよ。
この状況に。
馬鹿な元仲間に。
怒り狂う龍に。
ああ、辛い。
……辛い、
…………辛いはずなんだけどな、
ついさっきまで辛いと騒いでいたソースがついた串カツに何とも感じねえ。寧ろ味が分からない。
幽体離脱したみてえだ。体がふわふわしてる。酔ってんのか…?
きっと酒に酔ったんじゃなくて、アイツらに酔ったんだろうな。
本気のあいつらと話すのは精神を使う。精神を徐々に磨り減らされる。見ねえうちに成長してやがる。俺を越すくらいに。