牙龍−元姫−






言おうとしたんだ。



でも声に出すことはなかった。







――――テーブルに置かれた携帯のバイブレーションによって。





「戒吏、鳴ってるよ」





ブーブーと鳴りっぱなしの事から電話だと分かった。取るまで鳴り止むことはなさそうだと思い戒吏に携帯を渡す。



携帯のバイブレーションの音で扉に手を掛けたまま立ち止まった空は、振り返り首を傾げる。





「誰だよ?」


「―――蒼衣だ」






―………蒼?






「へえ〜、ならさっさと出ろよ。んで早く行こうぜ?」





暢気にそう言った空。



……そんな簡単な事かな?



遼と一緒にいる蒼が“ただの用事”で戒吏に電話を掛けてくる?――――ないよね。遼が居るならよく携帯を弄る遼が掛けると思う。



たった一本の電話が鳴っただけなのに何故か不安が拭えない。



僕と同じなのか戒吏はシンプルな黒の携帯を持ち、立ち竦んだまま。通話ボタンを押そうとしない。





「戒吏?何やってんだよ?鳴ってるぜ、携帯」





鳴り止む事のないバイブレーション。そう空に言われて仕方ないと思ったのか携帯の通話ボタンが押された。



戒吏が携帯を耳に当てる。
< 291 / 776 >

この作品をシェア

pagetop