牙龍−元姫−
たった一本の電話。
なのにどうしてこんなにも気が揺らぐのか。
ドク ‥ン
どクン‥
乱れがある鼓動。
心音が荒々しい。
何なんだろう、この拭えない気がかりな様は。
「……戒吏?」
横で空の不安気な声がする。
横に座る空を見るが空はただ戒吏だけを悩ましげに見ていた、
僕もそれに連れて、戒吏に目を向ける。
片手に黒の携帯を持ち電話から発する声に耳を傾けているようだ――――――険しい顔で。
不安、動揺、怒り、哀しみ?
何なんだろう、この訳のわからない感情の現れは。初めて見る戒吏の面持ち。
怪訝に戒吏を見るが、僕には目も暮れず電話に耳を傾ける。
この時から、
この時から既に始まっていたんだ、
――…崩壊への序章が。