牙龍−元姫−
「ミキ郎!お前は大変だな!こんな変なやつが幼なじみで!」
「……は、はぁ」
とりあえず戸惑いながら頷きました。
そんな僕に先輩はポンポンッと数回頭を叩きました。
その手は優しく暖かかったのを覚えています。
「何かあったら相談しろよ」
「……」
「仲間なんだから」
……何も、言えませんでした。
その先輩や他の先輩がバラバラに元の場所に戻っていく後ろ姿だけをぼーっと見るだけ。
言いたいことだけ言うと去って行く先輩方を見るだけで僕は何も言えませんでした。
仲間だから何かあったら言え、ですか。
「………なぜでしょうか」
思わずボソッと呟いてしまいました。
“仲間なんだから”
この言葉が頭から離れません。
先輩はカン太君はまだしも、僕も仲間と認めてるんですね。
何も僕は牙龍には志願して入ったわけではないんです。カン太君に連れられるがまま無理矢理入っただけで。
正直本当は滅茶苦茶嫌でした。
喧嘩なんて怖いです。暴力事件に携わることも人を殴ったこともありません。僕はビビりです。怪我だって痛いから嫌でした。
――――――なんて入ってから言える度胸さえあるわけもなく時は流れ今に至ります。
その間に生まれながらに持ち合わせた人懐っこさでカン太君は今の場所を作りました。
その点僕は居るか居ないか分からない程に影が薄いです。昔からそうでした。そして牙龍でも同じ。“カン太君が隣にいるから僕も目に入る”その程度です。
まるで売れている絶頂期のアーティストと希望すらない駆け出しのアーティストみたいです。
―――――「僕も仲間なんですね」
「ミキ郎?どうしたっすか?……それより!信じてくれて良かったっす!一時はどうなることかとヒヤヒヤしたでヤンスぅ〜…」
「そうですね、」
牙龍って、いいところですね。
確かに喧嘩なんてしたこともなく自己主張もない僕です。牙龍では変な意味で少し浮いています。
だけど皆さんを見ているだけで楽しいと思いました。本当に拒絶しているなら不本意ながらカン太君を見捨てて逃げています。
僕はここに来て色んな方に触れあいました。カン太君以外の誰かとワイワイするのなんて初めてです。賑わう港が心地いいんです。
“僕”を見てくれる場所。今なら胸を張って牙龍に入って良かったと言えそうです。