牙龍−元姫−
響子さんには笑顔でいてほしいと思うのは僕のエゴなんでしょうか?
哀しいように笑う響子さんは痛いです。痛々しくて目を逸らしてしまいそうです。その涙は真珠で、透き通るような宝石でした。
( あの日。ここから去る響子さんを皆さんが見届けていました、誰も止める人は居らず。誰もがその華奢な背中に手を伸ばす事はなかったです。ゆらゆらと長い栗色の髪が寂しげに揺れていました。 )
( 僕の立ち位置からは偶然、響子さんの顔を伺えました。本当に偶々。たまたま見えたんです。響子さんの瞳から零れ落ちた一雫が……… )
でも僕にとってただの涙でしかなく、何も響子さんの気持ちを汲むこともできませんでした。
なにひとつ理解できずに、おろおろ。追いかける勇気も出ずに。響子さんの背をあやす事さえ、できないなんて。
置いていかれる悲しみを感じて思案に暮れる僕は、去って行く側の響子さんの気持ちなんて一生理解出来ないでしょう。
だって僕は、馬鹿ですから。