牙龍−元姫−
「何か、あったんすか?」
「何もないですよ」
何もないです。特にこれと言ってないです。僕はカン太君の横にずっといました。何もなかったのはカン太君も知っている筈です
―――――しいて言えば響子さんを理解出来ない自分が浅ましく嘆かわしいという思いがあるからでしょうか。
「…オイラは、頭で考えずに体で動くでヤンス。牙龍に入るときだってミキ郎を無理矢理連れてきたっす。後の事なんて全く考えてないでっす」
「…カン太君それは、」
「静かに!いいから聞くっす」
珍しく真剣にいい放つカン太君に口を閉ざしました。いつになく真剣なカン太君を見たのはいつぶりでしょうか。
「無理矢理牙龍に入れたオイラをミキ郎は責めなかったっす。それどころか笑って済ましたっす…」
それは笑わなきゃやっていられなかったからです。
いきなり厳ついお兄さんの輪の中に入れられて正常なわけないです。ただカン太君がいたから僕は牙龍に留まりました。だけど内心、発狂してました。
「初めは後悔したでヤンス。でも段々それも薄れてきたっす。何でか分かるっすか?オイラにはとってミキ郎がストッパーだったからっす…」
「すとっぱー?」
「勢いだけのオイラとヘタレだけど冷静なミキ郎。足して2で割ったら丁度いいでヤンス!オイラ逹は二人で1つでヤンス!一心同体っす!」
「カン太君…」
“一心同体”なんて四字熟語よくご存知でしたネ…
なんて、的はずれな事を思ってしまいました。言ったらカン太君は怒りそうなんで言いません。
カン太君も成長しました。四字熟語を会得するなんて。そう思うのは昔からカン太君を見てきた幼なじみだからでしょう。カン太君は本当にで頭が悪いですから。
「ミキ郎!だからよく分かんないでヤンスけど元気出して下さいっす!」
「もともと元気です」
「そ、そうっすか?」
ちょっぴり幼なじみに感謝しました。
こんな僕と二人で1つなんて言ってくれた大切な幼なじみに。
少し、照れ臭いです。