牙龍−元姫−

イチゴミルク















「ねえ響子?」

「ん〜?」





私の親友・野々宮響子


私が声を掛けると聞いてるのか聞いてないのか分からないくらいの抜けた返事を返された。


当の響子はペラペラと料理本を捲っている。私が塗ったピンクのネイルが似合っている。さすが私。


響子はキャラ弁のレパートリーを増やしたいみたで料理本を捲る手を止めない。相変わらず家庭的な女の子。これはモテるわね。


ルックス良し・性格良し・おまけに家庭女子と来れば男が放って置かない筈がない。響子の前を素通りする男は男じゃないわ。






「美味しい?」

「美味しいわよ。と言うより作ったものなんて信じられないわね。店でも開けば?」

「ふふ。言い過ぎだよ」




ふにゃっと笑った響子。



あ――……癒されるわ。



可愛いすぎる。なんでこの子はこんなにも愛らしいの?


悩んでも分からない響子の可愛さについて本気で討論会を開きたい。きっと結構な人数が集まるわ。



ほんとに響子は癒し。

それにこの時間が私は一番好き。



昼下がりは一番視線を感じない。常に響子のファンが熱い視線を向けてくるから鬱陶しいのよね。だけど昼間は各々の時間があるから響子に意識は無い。最高よ。



私は響子の作ってきたチョコチップクッキーを口に入れながらそう深く頷いた。クッキーってこんな美味しかったかしら?



いいえ。もっと素朴だったはず。なのに―――――――なにこれ。あり得ないわ。たかがチョコチップクッキーが神秘的なオーラを纏っている。



―――――チラッと響子を見れば料理本を熱心に読んでいる。愛読書なのか付箋が何枚か挟まっていた。ほんとに文句なしの女。



この私でも憧れるわ。











ふと。響子が本を読んでいる姿を見ていると、今朝ゴミ箱に放り投げてきた小説が脳裏に浮かんだ。


同時に蟠りが心を厭な感じに渦巻く。気持ち悪い。やっぱり読むんじゃなかったわね、あんな小説。帰ったら燃やさなきゃ。
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