牙龍−元姫−
「喩えば 今日で地球が滅びる」
戒吏の声に耳を傾ける。
“喩え”に例え、話し出す戒吏を横目で見る。
一歩下がっている状態で斜め後ろからだとはっきりと表情は伺えない。
思わぬ切り出し方に少しだけ驚いた。なぜ比喩なのか、と。
突発的なことを言う戒吏に黙って耳を傾ける牙龍の奴ら。口を挟まない。ただ黙って戒吏の話を聞く。
““そう事前に伝えられていたら、
残す未練も、後悔も、懺悔も、心残りは全て無くなるのか。
やることやって 伝えることができるか。””
「無理だ。変わるわけがない」
戒吏は一括して、全てを否定する。
一体何を言いたいのか、何を伝えないのか。それは誰にも分からない。―――僕でさえも。何故、早く本題を切り出さないのかと煮え切らない。
““そう考えて、たどり着く答えはいつ世界が終わっても一緒だ。
結局は、変わらない。””
尚も続けられる言葉に、僕は薄々何が言いたいのかが見えてきた気がした。
戒吏が一分一秒でも惜しい時間を削ってまでも伝えたいことが。
““もう、過去は過去で 置き去りにされてしまっているからだ。
だが、……だからこそ
未練があり後悔があり懺悔がある。
割り切ることなんてできやしない。
綺麗になんてする術、どこを探しても見つからない。””
………そうだね。見つからないよ。見つかるわけがない。過去は過去だから。戻れないから“過去”になっているから。
「壊れろと言うなら無理だ。もう既に壊れてしまっているからな」
““此れが私欲と言うなら濁っているだろう。””
戒吏の眼は獲物を見つけた野獣の眼だ。ギラギラと憎悪で煮えたぎっている。
それに気がついたのか―――――――誰かが息を呑んだ音がした。恐れからか。端は何か別のものか。