牙龍−元姫−
「お前らが聞いて何を思うかは自由だ」
この言葉はこれから聞く話しについての各自の受け止め方の事だろうね。何を思い何を感じるのか。戒吏は“自由”を与えた。
何も自分と同じ考えを持たなくてもいい。でも最後まで聞いてほしい。だけど決断は自分で下せって事かな。ほんと戒吏は身内には甘いな〜…。僕ならさっさと駆け出して行くのに。
つくづくそう僕は感じた。
戒吏は「……だが」と続けて言うと、
「覚悟がある奴だけは―――」
““刄を翳せ、牙を剥け””
そう告げた。静かな物音ひとつしない溜まり場に、戒吏の声だけがしっとりと響く。
この言葉にどれだけの奴が目を見開いたのだろう。本気が伝わるくらい見たことない戒吏の“本気”。いわゆる“怒り”だ。
戒吏の真剣さゆえの本気が浸透しこの緊迫した空間に滲む。
““刄牙””
これを向けると言うことは、己の誇りを貫くという事だとココに初めて遣ってきたときに慎さんから聞いた事がある。
牙龍も指示も命令も関係ない――――そう。すべては己が為に。
いままでは総長の戒吏や幹部である僕達によって動かされてきた。
だけど今は違う。それを無視して俺を逆らってでも自分の意思で動け。着いて来る覚悟があるヤツは着いて来い。―――――そう言われた、コイツらは何を思うのか。
戒吏は選択義をコイツらに与えた。
僕には痛いくらいに感じ取れる。渦巻く戒吏の気持ちが。
“そう”言わないと後に反感を買うかもしれない。自分の意思よりも、戒吏は牙龍を選んだんだ。
総長は大変だね、
―……いますぐにでも此処から走り去りたいのを抑えてまで牙龍を選ぶんだから。