牙龍−元姫−






「あれー?あー、付かぬことお伺いしますが、響子ちゃん?」

「は、はい。何でしょうか?」





急に畏まった口調になった緑川君に自然と背筋が伸びた。





「――――千秋と里桜ちゃんとどんな関係なの?」





思いもよらない質問だった。でも輝君も気になるのかこちらに視線を向けてくる。





「中学の同級生と後輩だよ」

「あ〜…そっか。“あっち”経由なわけないよね」





妙に納得した緑川君に更に訳が分からなくなる。



“あっち”ってどっちなの?



“秋”経由ってこと?



だけど里桜が同級生で千秋が後輩と言う事実からどうすれば“春”に辿り着くのか分からない。





「そうだよね。話すわけない、か。知らないのも当然とも言えるね」

「知らなかったとか聞いてねぇんだけど。アイツ何考えてんだよ。“知り合いだから巻き込まれました〜”とか洒落になんねえぞオイ」

「里桜ちゃんが居るから大丈夫だよ」





ヒソヒソと会話する二人。



聞こえない会話に不貞腐れて羊の人形を見つめる。



よくよく考えれば私はこの二人の事をよく知らない。



どうして春とも秋とも冬とも面識があるのか。どうして千秋と親しいのか。どうして東街に来るとき必ず一目を気にするのか。バイクは有るらしいけどバイクでは何で来ないのか。どうして東街で喧嘩はご法度なのか。



ぜんぶ、しらない。



―……二人は何者なんだろう。



それはきっと教えてはくれない。そのことが少し寂しいと思った。二人の中に踏み込む資格がないと拒絶されてるみたいで辛い。



ギュッと羊の縫いぐるみを抱き締めながら哀しみに堪えていると、緑川君が羊を奪った。





「トモダチ、」

「え?」

「トモダチじゃダメかな」





苦笑いで、そう言う。



申し訳ないような、すがり付くような無理やり作った笑顔だった。
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