牙龍−元姫−
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数時間程前、総長である戒吏さん自ら僕達に話をして下さっていた牙龍の倉庫。
その倉庫の一階の中心はいま、血の海と化しています。
“それ”の前に立つのは牙龍総長寿戒吏さん。
靴は血を浴びズボンの裾にも返り血のせいで赤く染まっています。
上から見下ろす瞳は無機質でただ“それ”を射竦めるような瞳で見ています。
その右隣に空さん
その又隣に蒼衣さん
その又隣に庵さん
そして庵さんと戒吏さんの隣に立ち“それ”に眼では追えない程の速さで足を降り下げたのは――――――――遼太さんでした。
《ボキィッっッ》
““ギャアあァアア!!””
鈍い程の音と悲痛な叫び声が倉庫中に響き渡りました。
ですが同情する人はいません。寧ろ『もっと!』と煽る人はいます。
僕は思わず眼を反らしてしまいました。
隣にいるカン太君は、その慘劇な光景に釘付け。
怖い、怖いです。
“可哀想”とか“止めて”とか、そんな理由ではなく。
ただ吐きそうです、この光景に。倉庫は血塗りで赤い水溜まりが徐々に床に広がっていきます。
鉄の匂いに感覚が麻痺されていくのを感じます。
こんなときビビりは嫌です。怖いです。はっきり言って帰りたいです。でも帰れません。帰るわけにはいきません。
“それ”の最後を見届けるまでは。