牙龍−元姫−
「……私にはそんな子には見えないよ?」
私の言葉を聞いて、小さく呟いた響子に眉を顰める。
思わず手に持っている紅茶のパックを―――グシャッと握りつぶしてしまった。空で良かったわ。
「っんの、お人好しの馬鹿女。悪徳商人のセールスマンに騙されてしまえ」
「酷い」
―――プゥと頬を膨らませた響子。いつもなら突くけど生憎いまはそんな気分じゃない。寧ろお気楽な響子に呆れ果てている。
「疑う心を持ちなさいよ」
「はあい」
「聞いてる?」
「はあい」
「―――はぁ、」
駄目だ…
完璧響子の意識は料理本に向いている。もう響子に取ってこの話題は用無しらしい。逆を言えば興味がないと言うこと。
良いのか悪いのやら。
そして、不意に。呆れ果てる私の耳に響子を呼ぶ声が届いた。
「響子センパイ」
「え?」
響子と同様、横を見ると―――――――見慣れた顔がそこに合った。真新しい神楽坂の男子制服を身に纏う奴は少し新鮮だった。
何だか、
一緒の学校って変な感じ。
「あ、久しぶりだね。千秋」
響子がニコニコと目の前に立つ男に声を掛けた。千秋と呼ばれた男は、今朝も会った奴だ。
風見千秋、
わたし、風見里桜の弟。