牙龍−元姫−






徐々に落ち着きを取り戻す僕に醜い声が届きます。



カン太君の笑顔で一瞬此処が倉庫だと言うことを忘れていました。





「お、おい寿!結局俺は助かるんだろうな!?」





痛みからのた打ち回り、醜い声を張り上げました。



自分の事ばかりで周りが見えていないのでしょうか?



此処にいる人全てが貴方を睨んでいるのに。



しかし遼太さんが怖いのか今すぐにでも逃げ出しそうな“片桐さん”





「ああ、助けてやるよ」





―――――醜い笑顔です。



戒吏さんの言葉を聞いて瞳を耀かせました。



一気に笑顔へと変わったことに眉根を寄せました。自分よければ全て良しという事を自らで証明しているような方です。



ヘドが出ます。



争いは嫌いです。殴るのは嫌いです。殴られるのも嫌いです。暴力で解決なんて少し気後れします。



―――――でも“それ”はもっと嫌いです。



僕の弱々しい殺気が湧いてしまいました。



貴女は響子さんを傷つけた自覚が薄すぎます。反省の色もないです。実に腹立たしいです。












(‥‥――――バァン!





「―――――は?」





突然、大きな音が倉庫を轟かせました。





「(び、びっくりしました…)」





いきなり倉庫の扉が勢いよく閉じたからです。実は最初から開いていたのです。だから雨の音が鮮明に聞こえていました。



しかし今は―――――全く聞こえません。



閉鎖空間です。



錠がじゃらじゃらと揺れている。鉄と鉄が磨り減り音を鳴らす。



ジャラン。ジャラン。ジャラン。



――――鍵が掛かった。



出ることも、入ることも、もう出来ない、完璧な密閉。





「ど、どういう事だ!見逃してくれるんじゃなかったのか!?助けてくれるハズじゃッ」

「ああ」

「なら何で…ッ!」





閉めるんだ!閉じ込めるんだ!――――そう叫びました。



閉めきった倉庫には醜い声が響きやすいです。
< 360 / 776 >

この作品をシェア

pagetop