牙龍−元姫−
ある日の午後〜お迎え〜
***
――――――今日は早退したいと何度も思った。
でも前からサボりがちで有りながら、わたしは怪我で数週間も学校を休んでしまった。
これ以上出席しないわけにはいかなかった。
昨日里桜から電話が来て話を聞いたときは学校に休むか、行くかの葛藤だった。お陰で寝不足。
怪我も完治して体調も万全だったので、休む理由もない私はわざわざ迎えに来た里桜に引きずられて何週間ぶりかの学校へ泣く泣く登校した。
学校へ着いた私を待っていたのは―――――あの噂の嵐。
そして登下校中の今もそれは変わらずに吹き荒れていた。
「ね、ねえ見てあれ!野々宮さんだよ!」
「ホントだ!久し振りの登校じゃん!」
「つか何で休んでたの?」
「牙龍は牙龍は!?」
「隣には風見さんしか居ない!」
視線 視線 視線 視線。
里桜から話を聞いたときから覚悟していたけどこれは流石に異常だと思った。
「あ、あの、風見さん!」
すると突然目の前に人が立ち塞った。
髪をワックスで遊ばせたチャラめの男子が声をかけてきた。
わたしに、ではなく里桜に、だ。
――――この光景見るのも今日で何十回目だろうか。
本当に早退するだったのは私ではなく里桜だったのかもしれない。今日1日を終えた今スゴく達成感が沸き上がってくる。
「あのさ、」
男子生徒は私をチラッと見ると、何かを里桜に訴える。
しかし男子生徒が聞きたい情報を無視して苛つきながら畳み掛けた。
「は?何?また?私に何度も同じこと言わせるつもり?知らないって言ってるでしょ?だいたい隣に響子が居るんだから本人に話し掛ければいいのに、どうして私に声を掛けるのかしら?私に聞こうとする事自体大間違いなのよ。私は“アイツ等”の事なんて一切知らないわ。分かった?その空っぽの脳ミソでも理解出来たならさっさと立ち去りなさい。」
立ち去れと言っておきながら里桜は私の手をとり、唖然とする男子生徒の横を通り過ぎる。
ポカーンとする男の子に少しだけ同情してしまう。
朝からかなり苛ついている里桜にこの話しを聞くのはタブーだ。