牙龍−元姫−





そして怒りが収まってきた里桜は一息つくと小首を傾げる。





「響子は片桐のこと知ってたの?」

「ううん。知らないよ」

「ふん。とんだ身の程知らずな男ね。裁かれて当然よ。見ず知らずの響子に罪を擦り付けるなんて殴り殺したくなるわ。あらイヤだわ私ったら。もう愚民は殴り殺されたんだったわね。おほほほほ」





何気ない言葉に顔を顰めてしまう。


優しさがイタイ。



里桜の手は汚れてほしくない。





「…もう終わったことだしこの話は止めよう?」





殴るとか殺すとか、私の常識範囲を掛け離れている。



思わず、制裁って何をしたの?と考えてしまう。



つくづく噂って怖い。何がホントで嘘かを見抜けなくなってしまう。血だらけとか、暴力とか、恐ろしくなる語句が飛び交っていた。それを愉しげに会話する生徒の皆も恐ろしかった。



要らない事まで考えてしまうこの話題はしたくない。しかも渦中に私はいる。溺れたくないから考えるのを止めた。





「…1ヶ月も不在だった私の責任もあるから」

「…響子、」

「…疑われるような行動していたのは私なんだから」





終わったこと。終わったことなの。


考えるたびに自分が沈んでゆく。前のこと、これからのこと、いまのこと。すべてが靄のまま。



頭を過るのは、沈んでゆく自分。ゴポッと気泡が現れ身体が冷えていく恐怖が鮮明で―――…。
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