牙龍−元姫−
2人の関係を知らない人から見すればカップルのようだけど、全くそう言う関係ではない。
寧ろ上下関係が出来上がっている。言わずもがな上は里桜だよ。
「響子ちゃん」
「あ、緑川君」
里桜と輝君の攻防を見て、顔色を悪くしていた緑川君が逃げるように私のほうへ来た。
「お疲れさま。大丈夫だった?」
「体調は、ね」
「はは。神楽坂も大変だねー」
含みのある言葉に察したのか苦笑いを浮かべられた。
里桜の苛つき様で大体は分かっていたと思う。
体調は大丈夫だけど、いろいろと大丈夫じゃなかった。
―……さりげなく鞄を持ってくれる緑川君は紳士だと思う。
お互いの髪を引っ張りあう輝君と里桜を見て何故か悲しくなった。
「はい。ヘルメット」
「えっ」
急にヘルメットを渡されて戸惑ってしまう。
「今日は歩きじゃないの?」
「今日はバイクだよー。念願叶ってやっと響子ちゃんを後ろに乗せれる…!」
「ほ、本当だったんだ。バイク乗れるの嘘かと思ってた…」
「あはー。ごめんねー?こっちも訳ありだから易々とバイクで来れないんだよ」
困ったように笑って慣れた感じでバイクに跨がる緑川君。
移動は常にバイクだ!とか公言しておきながら常に徒歩のの2人。本当は乗れないんじゃないか、と疑っていた矢先のことだった。
「ほら、おいで」
優しく右手を引かれてバイクの横に立つ。緑川君は腰に手を添えて戸惑う私をひょいッと持ち上げて後部座席に乗せる。しかし軽々と私を持ち上げた緑川君はギョッと目を見開いた。
「軽ッ!軽すぎない!?響子ちゃん林檎1個分みたいな軽さなんだけど!」
「そ、そんなわけないよ…!」
林檎1個分なんてあり得ないから!逆に恥ずかしい!あり得ないから恥ずかしい!せめてお米何袋分とかの例えが良かった…!
体重を詐欺ってるみたいで羞恥心から顔が赤く染まる。