牙龍−元姫−
「ただ、後悔したくねえだけだ」
――――彼女が去っていったあと真っ先にタバコに手を伸ばした。
禁煙なんて言葉はすっかり忘れて精神安定剤のように紫煙が立ち込めた。
彼女が居たときは吸いたくなる衝動さえ消え失せていたのに、だ。
こうも1人の女に翻弄される自分がイヤでタバコに手を伸ばしていた。
「今は吸いたいとすら思わねえよ。タバコ不足っつーか、いますぐ逢いたい気持ちのほうがデケえわ」
誰かを思い浮かべながら海を見つめる。
打つのは、波か、情か。
「相変わらずオメェは以外に繊細だねえ。そんな深く考えんじゃね〜よ。気楽に行こうぜ」
「能天気野郎に言われたかねえよ。説得力にかけんだよ」
無意識なのか、あくまで否定はしない遼太に蒼衣の口角は上がる。―――――いちばん戸惑ってるのはこの男だと。