牙龍−元姫−






「あーあ、響子ちゃんには西に来てほしいのにー」

「う、ん。ごめんね?」

「謝るなら来てよー!」

「しつこい!」





里桜に一刀両断された緑川君は、ため息をつきながら吐き捨てる。





「だってさー、当分逢えないんでしょー?」





――‥そう。緑川君の言う通り逢えなくなる。



言い換えるなら逢えないと言うよりも、逢う回数を控えることを里桜が提案した。





「当たり前。東がピリピリしてるんだから響子との接触は控えたほうがアンタ達のタメになるわ」

「別に俺様は構わないのにー」

「響子の迷惑になることを考えなさいよ」

「問題はそれなんだよね」





“あーあ”とまたも項垂れる緑川君はテンションがかなり低い。





「て言うか里桜ちゃんが南に住んでるなら響子ちゃんと南の学校に通えばいいじゃん」

「南って言っても東よりの南でしょ?なら響子が居る東に通ったほうが効率がいいわよ」





いまさらだけど風見家は南街にある。東街と南街の境界線付近。



四街は自由に行き来できるけど、躊躇う人が多いし、自街から出ない人も居る。



志望校を決めるとき、里桜は南にするか東にするかを悩み私が住む東街の神楽坂を選んでくれた。
< 399 / 776 >

この作品をシェア

pagetop