牙龍−元姫−
鳴った鈴の鐘
***
相変わらずのアンティークの雑貨屋さんみたいに可愛らしい外観。
古いトルソーや木馬、自転車などが施された細かな装飾。
扉を開けると落ち着いた雰囲気。ヴァイオリンの奏でる音が店内を包み込んでいる。
こじんまりした喫茶店【Noel】
―――響子は花柄のワンピースの裾をひらひら揺らしながら【Noel】を尋ねた。
―――ガラン――ガランッ
扉を開けた事により心地いい鐘が鳴った。その音に気が付いた店のマスターが響子に声を掛ける。
「おお!久しぶりじゃのう、響子ちゃん」
「お久しぶりです、サンタさん」
――――どうやら響子はマスターと顔見知りのようだ。
響子は一度千秋に連れられこのお店に来たことがある。そして今日で2回目。
お爺さんは「サンタさん」と呼ばれクシャッと目尻に皺を作り朗らかに笑った。
「あの、千秋は…」
おずおずと聞く。響子がお店に来た目当ての千秋。その肝心の千秋が見当たらずお爺さんに尋ねた。
辺りを見渡す響子にお爺さんは店の奥を指差した。
「彼処におるよ」
「…え?」
響子が立つ入り口付近からは見えない場所。
お爺さんが指を差した方に歩いて行く。響子が歩く度に古びた木の床がギシギシと音を鳴らす。
「…カン太?」
響子はニット帽を被った見慣れた男を見つけ、思わず声が零れた。
だけど向こうは此方には気づいていない様子。
「うおお!見てくださいっす千秋君!これ甘いっす!コーヒーは苦いものじゃないでヤンス!?」
「…それカプチーノ」
「かぷちーの?かぷちーのは甘いでヤンス?流石っす!そんなこと知ってるなんて博識っす!それにしても何で千秋君のは色が濃いんすか?」
「…ブラックだから」
「お、大人でヤンス……。大人の魅力っす!オイラも早く大人に近づきたいっす!ぶ、ぶらっくをオイラも飲んでみるっす!」
――――何なんだろうこの光景は。
響子は首を捻り、疑問に思った。