牙龍−元姫−
を知らない不幸せ
***
―――‥重い空気。
ワシはカウンター越しにチラリと貸し切りの店なのに、人で埋まる1つのテーブルに目をやる。
千秋の宣言通りやってきたのは神楽坂の制服に身を纏った5人のイケメン生徒。
牙龍を見るのは始めてなんじゃが随分と整った顔つきじゃ。はて。牙龍は顔で選ばれるのかのう?
そう本気で悩むワシは、突如立ち上がった銀髪の男に目を向ける。
重い空気はコヤツが終止符を打った。相変わらず自分勝手な奴じゃ。
響子ちゃんが睨んでるぞ?
知ってか知らずか飄々と澄ました顔で笑顔を浮かべておる。胡散臭い奴め。
「じゃ寿さん俺はこれで」
「――…ああ。悪かったな」
「あと俺の名は千秋です。追々の為に覚えといて下さいよ」
やけに胡散臭い笑みを浮かべおった。
何が「追々」じゃど阿呆。"寿さん"と「追々」何があるんじゃ。いったいお前さん何を考えおるんじゃ。敬語なんて滅多なことでもないと使わんのに。
「追々」の為に下手に出といたほうが動きやすいのか?
「じゃ爺さん、また来る」
そう言い千秋はカウンターの前を通りドアを開けて早々と去って行った。
ひとつの紙切れを残して。
山折にされた紙切れ。カウンターを通ったとき置いていきよった、薄らと浮かべた笑みと一緒に。