牙龍−元姫−
不安に揺れ動くのは瞳だけではなく、空気にもそれが伝わっていた。
金髪の少年と栗色の少女の瞳はかち合い、離れない。
思わず此方も肩に力が入る空気の重さ。
―――それを桃色はばっさり引っ裂いた。
「な、なんだよ!!遼太ずりぃ!お、俺だって響子じゃないと嫌に決まってんじゃん!一人で話進めてんじゃねえよ!」
金色が響子ちゃんの視線を独り占めしてるのが気に食わないのか、桃色が言う。
“姫は響子だけだし!”と介入する。
そんな桃色に金色は呆れているのかと思いきや目をギラつかせて桃色を睨んでいた。
既に揺らめいていた瞳は消え去っている。
きっと邪魔されて癪に障ったのか桃色を睨む。
先程もそうじゃが、なんと空気の読めん奴じゃ…!
あきらかに空気が重かったじゃろうに。そこに介入して行く桃色は意外と勇敢な男じゃ。簡単に云えばただの間抜け。
じゃが助かったのう…。
この空気は重さはちと、年寄りの心臓に悪いわい。
響子ちゃんに“姫”を力説する桃色に少し感謝した。響子ちゃんはただ戸惑っとるがのぅ…。
桃色は見た目と真逆じゃな。豪快な性格に反した美少女顔。それと男にしては華奢な体つき。
空気が読めない奥手な男かと思えば意外なところで直球ストレート。曲がってなく真っ直ぐに自分の気持ちに素直じゃ。
その強引さの中に含まれる無邪気さに時偶救われるのやもしれん。
―――そんな桃色を笑うのは白金。
「僕も空に一票かな」
ワシが出したコップに手をつけ、紅茶を飲みながら爽やかに言う。
絵になるのう…。
まるで画集から飛び出してきたような優雅さじゃ。額縁越しに見れば本当に絵画じゃな。
言わずもがな白金の男は桃色と同じ気持ちなのか“一票”と簡潔に述べる。