牙龍−元姫−
黒は躊躇いがちに口を利く。
「…分からなかった」
“――…なにが?”
その疑問が空気を包む。
「屋上で会ったの覚えてるか?」
「…う、ん」
躊躇しながらも響子ちゃんは頷く。
「カン太を利用しようとしているのか、純粋に心配していたのか」
「…、」
「俺は考えにいくつか矛盾が生じて、なかなか答えに辿り着かった」
話は分からないが“カン太”は先程のニット帽の少年じゃと思う。
響子ちゃんに伝う涙を見ながら、黒髪の少年は尚も続ける。いままで隠していた本音を伝える為に。
「――…実際答えなんてあるのか、“裏切り者”、これが答えなんじゃないのかとさえ思った」
…ああ、そうか。
何も黒はずっと響子ちゃんを疑っていたわけではないのか。
見えてきた本音にワシは独り、隠れて頷いた。
黒はつらつらと想いを言葉にしていく。
「考えているうちに何がなんだか分からなくなった。
いっそ“牙龍には”関わらないでほしいって思い始めた。
だから“お前には関係ない”って言ったんだ」
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沈黙に陥った、空間。
聞かされた黒の本音に気まずさが混じる。