牙龍−元姫−
「俺も初めは響子が裏切り者だと信じて疑わなかった」
「…っ」
微かに歪められた顔色。少しだけ俯いている響子ちゃん。
栗色の髪に隠れた表情は彼らには見えはしなかったが、このカウンター内からは微かながらに歪められたのをこの目で捕らえた。
直接本人から聞くのは堪えるじゃろう。
「改め直してみて考えが変わったのは途中からだ。それから過ちにも薄々気付き始めた」
黒は再び語り始めた。
だんだん明確に見え始める黒の想いに、どうしてココまで絡まり、解けない程に縺れ合っているのかと問いたくなった。
“響子がそんな奴じゃねえなんて分かりきってる事だった。
それでも俺はアイツから任された牙龍を堕とすわけにはいかなかった。
だからこうなった…
なんて所詮言い訳にしか過ぎない。
だがこの判断が更に牙龍を堕とす事になるとは思いもしなかった。”
判断――‥それは響子ちゃんを裏切り者としてしまった誤った判断。
牙龍を束ねる総長として人一倍、悔み、喪失感を味わっているじゃろう。
「女一人守れねえ“総長”なんて形だけだ」
黒は、そう言って自嘲した。