牙龍−元姫−



金色の髪を引っ張っていた小娘は白金に仲裁に入られたため、掴み合いは敢えなく中断。



小娘は大きな荷物を床に置き響子ちゃんに近づいて眉を下げた。





「だ、大丈夫?響子ちゃん?」





顔を傾け不安気に響子ちゃんの顔をおずおずと覗き込む小娘。



そして響子ちゃんもつられて顔を傾ける。



肩にさらっと栗色の髪が掛かった。数回円らな瞳をパチパチと瞬き。大きな瞳が飛び出してきそうだ。瞬きと一緒に長い睫毛が上下に揺れる。そして甘い声で呟く。





「“編集者”?」

「ぐはっ!げ、激かわ!たまらん!は、鼻血が留まらない…!萌えショット戴きます!か、カメラカメラッ!」





響子ちゃんの円らな瞳で見つめられた小娘は鼻を押さえた。



響子ちゃんを写真に納めたいのかあるはずもないカメラを探すために床を這う。



端から見ればただの変質者。なぜか誰も驚かん。なぜ咎めんのじゃ。“これ”が普通なんかのう?



お前さんらの日常を疑うわい。



ワシのなかで小娘=変人という方程式が成り立った。



―――不思議そうな顔をする響子ちゃんに黒の奴は小娘を指差して言った。





「コイツ、小説家」





なんじゃと?



声の波なんてものはなく無表情のまま言う黒にワシは思わず聞き返してしまいそうになった。



小説家?このアホ丸出しの小娘がか?





「え。そうなの寿々ちゃん?」





再度瞳をぱちくりして聞き返す響子ちゃん。



その瞬間眉を顰めて訝しげな表情を白金は浮かべた。





「“寿々ちゃん”?」

「おいおい随分と親しげな呼び名じゃね〜か」





そう言う藍色に鼻を高々にした。小娘は満更でも成さそうな笑みを浮かべる。





「ふふん!仲良しもなにも…



親愛なるお友達だからね!!」





妄想も大概にな。





「おい!笑うなソコ!爺ちゃん今絶対失礼なこと考えただろ!?」





しまった。鼻で笑ったのが聞こえてしまった。ワシの正直者な面が仇となった…!



いそいそと目が血走る小娘から顔を逸らす。



気を紛らすために豆を削ることにした。(ゴリゴリ。)



削りながらも意識はテーブル。(ゴリゴリ。)
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