牙龍−元姫−
眉根を寄せると黒はオヒメサマを否定した。
「…そんな公表してねえ」
牙龍から“新たな姫”が誕生したなんて言ってない。
そう告げた。
確かにワシも東に住んどるけど聞いたことはないのう。
「…なんで、だろ?」
響子ちゃんが不思議そうに呟いた。
多分噂に尾ひれがついて広まったんじゃろうな。
噂は役立つときもあれば時として仇に成りうることもある。
本人から直に聞かされていない事を鵜呑みにするわけにもいかない―――――しかし情報がないときは噂が真実身のある話に聞こえるためあっさり鵜呑みにしてしまう傾向がある。
“噂”とやらは恐いの。
喩え嘘の噂話でも1人が本当の話だと言えばもう1人も信じ込む。そしてもう1人。また一人とな。
――――こうして“噂”は事実となっていく。
勘違いするのも無理はないと思った。
「勘違いしてたの?ただの噂だよ。寿々は姫じゃないしね」
悩む響子ちゃんに白金が手助けした。相変わらず柔らかい貴公子のような笑みを浮かべとる。
不意にその柔らかい笑みが躊躇いがちに迷った表情に移り変わり―――――――‥
「響子、戻って来てくれる?」
貴公子の言葉に困ったような顔を見せた。
しかし困りながらも気遣うように笑みを見せ―――――否定した。
「ゴメンね。それは無理だよ」
その言葉に、彼らは敏感に反応した。
それがわかったのか響子ちゃんは更に困った表情を浮かべる。
どうしたら彼らの希望に添えられるのかが分からないんだろう。
「なんでだよ!?やっぱり俺達がっ、」
「嫌いとかじゃないよ?」
「なら何で…っ!」
「オイ。ちったあ落ち着きやがれ」
響子ちゃんに詰め寄る桃色の襟を引っ張り静止させる金色。