牙龍−元姫−
「サンタの爺さん。この子が響子」
千秋が私の肩を叩きながらお爺さんに話し掛ける。
サンタ?
お爺さんは‘サンタ’さんなの?
「ほお。君が‘響子ちゃん’なのかい?」
カウンターでティーカップを拭いていたお爺さんが手を止めて私をジッと見つめてくる。
「初めまして、野々宮響子です。私の事をご存じなんですか?」
意味深にワハハ!と豪快に笑うお爺さん。
私はこのお爺さんと初対面の筈。だから勿論、このお店にも来たことはない。でもお爺さんは私のことを知っている様子―――――――――――どうして?
首を傾げる私にお爺さんは笑いながら教えてくれた。
「ワハハ!とある若き青少年から‘響子ちゃん’の話は存分に聞かされているからのォ」
「若き、青少年――?」
‘若き青少年’?誰だろう?
私の事を知っている人だよね?
お爺さんに聞いても、ただ笑うだけで曖昧に誤魔化される。だけど時折私の横で少しだけ不機嫌な千秋に意味深に目を遣る。
千秋なのかな?
千秋がお爺さんに私のことをこのお店に来て話していたのかな?
そう思うと何だか可笑しくて笑みが零れてしまった。
態々、自分から出向くなんて千秋らしくない行動だから。