牙龍−元姫−



こんな寒い空気に耐えられるわけがない、とワシは豆を削ることを再開させることで気を紛らわす。



しかしどことなく気になる事の成り行き。



耳だけは彼らに自然と傾く。





「もう皆には関わることもないと思うけど―――‥」





響子ちゃんが“終わり”を口にする。



――――がそれを最後まで言うことはなかった。



まるで言わせないとでも言うように。



金色は鋭い瞳を更に尖らせながら言った。





「―――なら“今は”無理なだけじゃねえか」




え?、と言いたげに響子ちゃんは首を傾げた。



もちろんワシも傾げた。



“今”の意味がわからん。



よく聞こえるように手を休めると会話に集中した。



盗み聞きするワシを露知らず、金色は尚も話す。





「あの女が望まないから戻らねえんだろ?ならお前が説得すりゃあいい話だ」

「…わたしが?」





説得するの?と目を見開いた。



当たり前だと言わんばかりの金色のどや顔。



コイツらは屁理屈集団か。



“今”はダメだとしても許可が下りた“後”なら戻ってこれる。そうお前さんは言いたいのか。



黒と言い金色と言いアホかコヤツら。“里桜”以前に響子ちゃんが納得せんわ。



そして呆れるワシを更に呆れさせる奴が現れた、





「響子!俺諦めねえし!響子が俺を嫌いでも構わねえ!俺しぶといからな!」





桃色は瞳を輝かせ言う。金色の言葉には突っ込まん。まるで名案だとばかりに心を弾ませる。
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