牙龍−元姫−












***



いつからだろうか。教師になりたいという夢を見始めたのは。



確か高校時代、研修に来た大学生と出会ってからだ。



その人は貧国を救うボランティア活動をしている人だった。彼からはてんやわんやに過ごした貧国でのボランティア活動の話を聞いた。


―――活動の初日。



先輩達と現地に訪れると見るも無惨な有り様だったらしい。衣服も水も食べ物も皆無で、物資を五体満足に得られはしない。



そんななか、僕は日本語を教える授業をしたとその人は言った。



勿論場所は学校なんていう立派な設備はない。全員に行き渡る教材もなく耳だけが頼りな青空の下での授業。



しかしその人は言った。



「今までで一番伸び伸びとした最高の授業だよ。」



知識を得ることに意欲のある貧困な子供達。そんな子供たちの可能性を潰すのは誰なんだろう。



熱心に話を聞く子供達に心を高ぶらせ、手振り身振りありとあらゆるモノを伝えたと言う。



聞くことに熱心な子供。話すことに熱心な僕。



――‥世界を肌で感じたよ。



その人は、そう言った。



国境を越えると想像もつかないものが目に飛び込んできた。世界は広い。僕の知らないものなんて、未だ未だ沢山ある。



“世界”があるから、僕がいる。人がいる。動物がいる。自然がある。



僕は世界のほんの一欠片を視たにすぎない。でも確かにあの時の僕は“世界”を感じていた。



“いま”を生きていることを実感していた―――‥









彼との出逢いは私の人生そのものを大きく変えた人だろう。



なんの変哲のない人生。理想なんて所詮は憧れで終わると思っていた。



思っていたけれど、私は彼が言う最高の授業と云うものに興味を持った。



“生きている”心地と云うものを感じてみたくなったのだ。



1度目の学生生活は冷めた青春だった。甘酸っぱく切なくも楽しい“2度目”の青春を教師として味わいたくなった。



彼とあったことが私を変えた。まさにこれは運命と呼ぶに相応しかった。



そんな彼は今となっては私の永遠のパートナーなのだけれど…。



出逢いは一瞬。
出逢えば一生。



そしていま私は“先生”としてこの場に立っている――――‥。



< 475 / 776 >

この作品をシェア

pagetop