牙龍−元姫−
彼女の瞳に狼狽えながらも、
素早く目を反らして彼等へと視線を移す。
彼らを睨み付け文句を言おうとした風見さんの前に、
「俺たちが考えた結果だ」
寿君が話し出した。
教室は、彼を邪魔しないように静かだ。
声は静かに澄み渡る。
「何も反省してないわけじゃねえ。だけどお前が響子を思う気持ちと同じように俺たちも響子が必要なんだよ」
そう言った寿君に顔を僅かに歪めた風見さん。
…野々宮さんを想うもの同士。
野々宮さんを大切に想う風見さんだからこそ、彼らの気持ちはわからなくもないのかもしれない。
野々宮さんが自分から離れることを想像したのか顔を歪めた。
…しかし野々宮さんが彼らに傷つけられた手前彼らの気持ちに納得出来ないんだろう。
そして元より高飛車な彼女。此処で信念を曲げるなんてプライドも許されないはず。
彼らや彼女らの事情なら私も知っているわ…
と言うよりも知らない人の方が格段に珍しい。
一担任である私がでしゃばる場面ではない。だけど何も出来ないのも歯痒かった。
先生、なのに。
「そうそう〜。それに俺達もいま何もしてねえわけじゃね〜よ?」
僅かに緊迫した2人の間に入り口を挟む藍原君。
いつものんびりペースの藍原君が割って入ったことで2人の視線が逸れて、空気が和らいだ。
「そうだよ。俺達、というか牙龍はいま―――‥」
「オイ」
「ああ、ごめんごめん。言ったらダメだった?」
態とらしく悪びれもなく言う七瀬くん。笑う七瀬君に、不満な様子の寿君。
いま牙龍がしていること、
それはたまたま学年主任から小耳に挟んだ。
多分その内容なんだろうな。彼等らしからぬ行動だと心底驚いたのは記憶に新しい。
彼らなりの反省の現れなのだと思うけど、何で“そんな事”をする過程になったのか分からない。
しかし『不器用な彼等らしい』と学年主任は微笑した。
そして思わず私も笑ってしまったのは彼らには内緒だ。