牙龍−元姫−
きっと和むと思っているのは私だけではないと思うわ。
しかし野々宮さんの親友である彼女は気に入らないご様子。
彼女の瞳からは火花が迸る。それに応戦するのは寿君。
……闘いのゴングが鳴った。
『カーン!』
「〜〜ッもう!響子に話しかけないでよ!イライラするわね!ほんと相変わらずムカつく男!」
「…ハッ。カルシウムが足りないんじゃないのか?流石ハバアだな」
「んだとゴラア!もういっぺん言ってみろ、このメカオタク!」
「オタクじゃねえ、マニアだ」
「どっちでも同じよ!頭イカれてんの!?」
「同じじゃねえよパンダ。動物園まで連行してやろうか?」
「ぱ、パンダぁ!?誰がパンダですって!?これはメイクよメイク!それと響子!あんたもさりげなく何頷いてんのよ!」
「図星だからって響子にあたんなパンダ目」
「“目”がついただけじゃない!パンダから離れろ!だいたい可愛い私に向かってパンダなんていい度胸してるわね!?」
何処からそんなに早く言葉が出るのか。ペラペラと早口で言い争う2人。
クラスの生徒で“パンダ”で、頷いた生徒は少なくない。因みに私もその1人でした。
美人さんなのにそのメイクは勿体ないとしみじみ思うわ。でも今更ナチュラルメイクにしたらそれこそ驚きだけど。
――‥そういえばこの2人は1年の頃から仲が悪かった気がするわね。
頭の片隅で2年程前の事を振り替える。
だけどこのやり取りを見たのは久々だわ。何だか2年前に戻ったみたい、と思いに耽るのはきっと私だけではない。
野々宮さんが彼らと関わらなくなった後は風見さんも同様。
寿君との言い争いを聞くことはなくなった。
だから、少しだけ懐かしい気分に陥った。
そして、ピリピリとした2人に声を掛ける七瀬君は勇者だと思った。
「ねえ闘いを繰り広げてるところ悪いけど響子の前だよ?」
…バッ!
「き、響子?」
「ハ、ハイ」
「…何で片言なんだ」
「ナンデモデス」
勢いよく振り向いた2人に片言な野々宮さん。
野々宮さんには“頼りになるお姉様”でいたい風見さんは、
今見せてしまった失態に悔やむ。