牙龍−元姫−
野々宮さんがスルーしてくれたのは良かったけどイライラする2人に空気は悪くなる一方。
七瀬君はニコニコするだけで見向きもしない。
『せ、先生っ!』
生徒からの悲痛な心の叫びが聞こえる。瞳で訴えられる。
どうにかしてくれ、と。
だからどうして私なのーっ!?
無理よ!
貴方たちの総長でしょ!?
貴方達でどうにかしてッ!
そう瞳で訴え返す。
無理だ、と首を横に振りながら。
そんな私と生徒のやり取りが数回続いたところで―――――――――――漸く彼が動いた。
「つうか〜。話進まねえからもうちょい静かにしようぜ〜?」
――――この時ばかりは全員一致で彼に感謝しただろう。
そして思う。
『神だ』
と。
口に含む棒つきキャンディーを舐めながら黒板を指差す藍原君。
そう。まだ黒板には名前すら書かれていないが作戦会議の途中だった。
よく行ってくれたわ!藍原君!
だらけた子だとばかり思っていたけど意外としっかりしてるのね!先生感動したわ!
君の煙草が何故かキャンディに変わってるのは不可解だけど…
身体にいいから良し!
この前渡した“身体に悪影響を及ぼすタバコ〜長寿のために〜”を読んでくれたのかしら?
今度キャンディでもプレゼントするわ!
健康男子となった藍原君の言葉に即座に野々宮さんがフォロー。
2人を宥め“会議を早く終わらせよう”と語りかけた。
やっぱり心底気の利く子だと思った。問題児だらけのクラスにこういう子が1人いないとやっていけないわ。
――――親友である野々宮さんの言うことにはすんなり従う風見さん。
それは寿君も例外ではない。
風見さんは野々宮さんに一頷きし黒板の前で立ち竦む私に言う。
「そうね。山口先生進めていいわよ」
流石は女王様の風見さん。かなり偉そうだ。然も当然のように指示する彼女に腸が煮え繰り返りそうになった。
君達のせいで長い時間、話が進まなかったのよ?
未だ手に持つチョークを折りそうになるのを堪えた。
それは大人の威厳ってものよ。
うふふ(壊)