牙龍−元姫−



だけど朝はいつもA組の前をわざと通り、野々宮さんを盗み見るのが日課。



俺は今日もいつも通り女神を拝む筈だった。



はず“だった”



拝むことは出来た。出来たが―――――鞄を落として唖然。



何も俺だけではなかった。



俺の他にもA組を覗いては固まる生徒たち。



何故なら、



彼女の周りには彼等が居たからだ。


噂の根源ともなる彼等が。





「野々宮さんを嫌ってるんじゃないの?」
「仲が戻ったの?」
「…え。どういう状況?」
「来ない間に何があったの?」





ひそひそと囁かれる。



みんな信じられないモノを見たかのような顔。そして俺もそのうち1人。目は彼女に釘付け。



3Aの教室には困りながらも彼等に微笑む彼女がいた。



そして普段からは想像もつかないほど柔らかい表情をしている彼等。








「(え、夢デスカ?)」







呆然と見ていると、同じく呆然と突っ立っている風見さんを見つけた。



女神から視線を移し観察していると、



ハッと我に返った風見さん。



叫びながら彼等と彼女の輪に割って入っていくのを目にした。



やはり風見さんは男前だと改めて思った。



3Aでの光景が目に焼き付いて離れない。



信じ難い衝撃を受け、とぼとぼと自身の教室に向かう。











見て分かる通り彼等が再び彼女に熱を上げているのは確かだと、



今朝この目で実感した。




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