牙龍−元姫−
【甘快】と知り、納得がいかないのか不満そうに唇を尖らす。
「女×女の小説じゃん?なのに【禁愛シリーズ】じゃないの?同性愛は禁断の愛じゃいの?」
ああ。成る程。
りっちゃんが納得いかない理由がわかった。
白鷺先生の小説を読みはじめた頃は私もわからなかった。
でも白鷺先生のシリーズ作品には共通していることだった。
不可解そうなりっちゃんにとあるページを見せることにし【深紅の薔薇】の表紙をあける。
「ここ見て」
ぴらぴらぴら。りっちゃんがやっていたようにページを早送り。
開けたページは最終頁から数頁前の後書き部分。
りっちゃんは興味深そうに頁にのめり込む。私は書かれた1部だけを声にのせる。
「【これが“禁愛”と想う方もいらっしゃるでしょう。しかし私はそうは想いません。どんな人達であれ、愛があれば成り立つからこその“愛”だと想います。本当の“禁愛”と云うものは親しき人を裏切ってまで手に入れる愛だと思います。“禁愛”は血筋や性別ではなく裏切りの形だと思います。】――――だって。」
男同士や女同士の恋。
兄妹や姉弟の恋。
はたまた親と子か。
しかしそれは“禁愛”ではない。本当の“禁愛”は裏切ってまで手に入れるようとする愛。
妻や子供が居ながらも別の女の影がある夫。それは“不倫”。
親友の彼氏だと分かっていながら親友を棄ててまで男をとる恋愛。それは“略奪愛”。
片隅に罪悪感が残るものこそが“禁愛”だと白鷺先生は述べているのだ。
「…流石と言うか、何と言うか。やっぱ白鷺千代だなって感じ」
いまの言葉を聞き、りっちゃんは感心したように顎に手を添えると深く頷いた。
「【甘快シリーズ】はまだいっぱいあるよ?りっちゃんも読んでみなよ!面白いからさ。絶対嵌まる!」
【深紅の薔薇】は妹系お嬢様と姉系お嬢様のお話。
他にも女教師と男子生徒の秘密の学園恋愛。義父と妹の恋に悩む姉の話。有名な指名手配犯の女と、殺人犯になった男の話もある。
官能小説家の白鷺先生と言うこともありエロチックなストーリー展開をみせる。
さりげなく勧める私にりっちゃんは溜め息をつき横に首を振る。