牙龍−元姫−
良い薫りに癒され、浮き足になる。
乱れた髪を直してくれている彼女を見てハッと現実に戻る。
「ご、ごめんなさい!待たせたみたいで…!」
「ふふ。大丈夫だよ?私もいま来たところだから」
―…お姉様のようだ。
なんて考えながらギュッと【深紅の薔薇】を抱き抱える。
「あ。やっぱり深紅の薔薇は亜美菜ちゃんも読んでたんだ。なら茨棘の罠も?」
「は、はい!」
「わぁ〜。やっぱり亜美菜ちゃんとは好みが一緒なのかも。里桜は小説読まないんだよね…」
話ながら歩き出す。
徐々に離れていく校門。
彼女の隣を歩く私に羨望の眼差しが降り注ぎ、少しだけ優越感に浸る。
“てくてくてく”そんな効果音が付きそうに歩く。
まるで小動物のようだ。
背に比例して脚がそこまで長くはないらしく歩幅が狭く歩き方まで愛らしい。
自分のペースで歩いていた私だけど一生懸命付いてこようとする彼女に気付いて歩幅を合わせた。
彼らと一緒に歩く彼女は辛そうには見えなかったのに…。
なら、どうして?
それは彼らが彼女に歩幅を合わせていたからだろう。
――――――あまり好きではない彼らの、
彼女への優しさを狭間みた。