牙龍−元姫−



そうとは知らない彼女は、



「そっか。」と呟いた。



すると突然私に向かって悪戯っ子のような笑みを浮かべる。





「ちょっと残念。亜美菜ちゃんが待っててくれてるかもって思っちゃった」





下をペロッと出し、てへへと照れ笑い。





―――やっぱり本当の事を言おうかな。



うん。いまからでも遅くない。



『いっそ地の果てまで追い掛けたく成るほど、ジッと時計だけを見つめて待ってました』って。



言いたい。でもやっぱり言えない。彼女を困らせたくないから。





「亜美菜ちゃんとは久しぶりに会うね?」

「は、はい!お久しぶりです!」





ふと彼女は苦笑いを浮かべる。



吃る私が可笑しかったのかな?と恥ずかしくなったけど、どうやら違うらしい。



そしてそれを言われるのは何回目だろう。





「まだ敬語外せないんだ?もうそろそろ良いんじゃないかな?」

「む、む、無理ですよ!タメ口なんて!」

「同い年だよ?」

「それでもです!」





困った風に笑う。別に困らせたいわけじゃないのに。彼女には申し訳ないけど、これはだけは絶対に譲れない。



私なんかが彼女にタメ口?―――――――無い無い。あり得ない。無理だ。絶対に。



憧れの彼女を、いままでずっと見てきた彼女を、



呼び捨てにするなんて、私には出来っこない。



< 521 / 776 >

この作品をシェア

pagetop