牙龍−元姫−
そうとは知らない彼女は、
「そっか。」と呟いた。
すると突然私に向かって悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「ちょっと残念。亜美菜ちゃんが待っててくれてるかもって思っちゃった」
下をペロッと出し、てへへと照れ笑い。
―――やっぱり本当の事を言おうかな。
うん。いまからでも遅くない。
『いっそ地の果てまで追い掛けたく成るほど、ジッと時計だけを見つめて待ってました』って。
言いたい。でもやっぱり言えない。彼女を困らせたくないから。
「亜美菜ちゃんとは久しぶりに会うね?」
「は、はい!お久しぶりです!」
ふと彼女は苦笑いを浮かべる。
吃る私が可笑しかったのかな?と恥ずかしくなったけど、どうやら違うらしい。
そしてそれを言われるのは何回目だろう。
「まだ敬語外せないんだ?もうそろそろ良いんじゃないかな?」
「む、む、無理ですよ!タメ口なんて!」
「同い年だよ?」
「それでもです!」
困った風に笑う。別に困らせたいわけじゃないのに。彼女には申し訳ないけど、これはだけは絶対に譲れない。
私なんかが彼女にタメ口?―――――――無い無い。あり得ない。無理だ。絶対に。
憧れの彼女を、いままでずっと見てきた彼女を、
呼び捨てにするなんて、私には出来っこない。