牙龍−元姫−
私と彼女の出逢いは本当に偶々。
神楽坂の静かな図書室は私の穴場。
人が寄り付かない図書室は本を読むのに最適の場所だ。
しかしその日は意外な人物――――――野々宮響子さんが居たのだ。
彼女を見て狼狽える。そして考えるのはいつも同じ。ボーッと見つめて夢をみる。
“亜美菜”と呼ばれてみたいと、何度も思ってみたりする。
所詮は夢。幻想で終わる。
なのに――――‥
まさか現実になるなんてこのときは思いもしなかった。
いつもの定位置の席につき自前の書籍を読む。りっちゃん曰く私は本を読み始めると没頭しすぎて、周りが見えなくなるらしい。
図書室に来て何分たったのか…、ふと私に影がかかる。
誰かが前に立っているのだろう。
本に夢中の私はあまり気に留めなかったが、流石になかなか動かない影を不思議に思って上を向けば―――――目を丸くした。
何故なら先ほど遠巻きに見ていた彼女が私を見ていたのだから。
キョトンとする彼女。
そして、そのくりくりした円らな瞳に映る間抜けな面の私。
この日、
はじめて私は高嶺の華と称される彼女と言葉を交わした。
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「亜美菜ちゃん?」
「は、はい!」
ヤバい。思い出に耽りすぎた。
「どうかしたの?」
「い、いえ。図書室で出逢った時の事を思い出してしまって、」
いきなり何だコイツと思われても仕方ない。しかし彼女は微笑し、思い出しながら語る。