牙龍−元姫−
「あ、あの…」
いまだに反応を示さない彼女に、話しかけてもいいのかと躊躇ってしまう。
「なまえ」
「…え?」
「私の名前読んでみて?」
ポツリと呟いた彼女に聞き返せば返ってきたのは意味深な言葉。
なまえ?名前って…
「の、野々宮響子さん?」
「まだフルネームなんだ…」
口元に手を宛がい考える仕草をする。微かに眉間に皺を寄せているけど、それさえ絵になる。
「名前で読んで?」
「え!?む、無理ですよ!」
「敬語もやめて欲しいんだけどな…なら、どっちか止めて?」
「えええ!?無理です!」
「だーめ!どっちか止めないと怒っちゃう!」
「(か、可愛い…っ!)」
ぷうっと頬を膨らませる彼女に悶える。キリッと吊り上げられた目は私からしたら上目遣いにしか見えない。
もう存分に怒ってくださいと言いたくなるほど可愛い。
どうすれば…と戸惑う半面意外な一面が見れた…と思った。
いままで私の想像ではずっとおしとやかに微笑んで、他人の意見を尊重する人だと思っていた。
だから、まさか。
ここまで自分の意見を表に出すとは思ってなかったから――――――――嬉しかった。